ある日のSlackで、
ダッシュボードの利用状況を確認する場面がありました。
地域ごとに使っているかどうかを確認するだけの、短いシンプルな問いかけです。
確認の担当であるSoniaさんから私とブレンダンさんへ、
以下のような質問があり、それぞれ回答を送りました。
- Soniaさん:Can you confirm if the Dashboard is being used in your Geos?
(あなたの地域でダッシュボードは使われていますか) - 私 :APAC does not use it for APAC meetings.
(APACでは、APACミーティングでは使用していません) - ブレンダンさん:Been my experience, recent history.
(直訳:最近の経験では、私の経験では) - Soniaさん:Ok thank you.
(ありがとうございます)
この会話で心にひっかかったのが、
ブレンダンさんが使った “Been my experience, recent history.” という返信です。
見ての通り、文章として未完成で”NO”も“Yes” もありません。
ですが、会話の流れとして、何かを確定させているように見えます。
また「確定」したい答えが同意なのか、
もしくはやわらかい否定なのかも、
この一文だけではまったく判別できません。
Soniaさんの返信から推測して「もしかして否定の意味だったのだろうか」と
思いましたが、
明示的な否定語がないのに、
意図としてはNOの方向に受け取られていて、混乱してしまいました。
あとから知ったのですがこの言葉、
もとの文章から、3つの重要な部分が省略されていました。
分かりやすいように、完全な形に戻してみます。
- “That has been my experience in recent history.”
(それが最近の私の経験です)
①主語の “That”
②助動詞の “has”
③「何についての経験か」という対象
③の対象は、「直前の私の発言」です。
「APACでは使っていない」という内容が、暗黙の前提として、
共有されていたんですね。
つまりブレンダンさんは「最近の自分の経験でも同じだ」と伝えていたのです。
英語では、同意する場合、否定を繰り返す必要がありません。
前の文が否定であれば、その否定を受け止めるだけで、回答が成立します。
一方で、反対の意味を伝えたい場合には、
新しい事実を明示する必要があります。
私は使っていないけれど、ブレンダンさんは使っていた、という場合は、
- “I have seen it used.”
(使われているのを見たことがあります) - “Yes, it has been used recently.”
(はい、最近使われています)
このように「used」という言葉を、
あらためて持ち出すことで、対比が明確になります。
今回の件だけでなく、Slackにはいくつかの特徴的な略式表現があります。
・主語や助動詞を大胆に省略する
・直前の発言を前提として文を成立させる
・同意は最小限の言葉で示す
・反対意見は新しい情報で示す
文法としては不完全ですが「読み手が前提を共有している」という認識のもとで、
会話構造が整ったやりとりが生まれています。
日本語で言うなら「行間を読む」でしょうか。
英語でも、行間を読むケースがあるのかと感心しつつ、
短い一文の中から、書かれていない部分をどう読み取るのか、
という課題に気付かされました。
Slack英語は「言葉そのもの」よりも「流れ」を見ること。
それが、会話の理解を深める鍵なのだと、静かに納得したやりとりでした。


