子どもの頃、私はカナダでクリスマスを迎えていました。
雪がしんしんと降る冬、玄関のチャイムが響くたびに小さな儀式がありました。
新聞配達の少年や郵便配達の人が来ると、
家族は「クリスマスカード」と「一ドル札」をそっと手渡すのです。
当たり前のように行われていたその風習は、
子どもだった私にとっては小さなイベントで、
どこかハロウィンのような、少し遊び心のあるものでもありました。
玄関を開けると冷たい空気と笑顔が同時に入り込み、
その瞬間だけ世界が少し優しくなるように感じていました。
あれから年月が経ち、クリスマスカードが届くことはめっきり少なくなりました。
こちらから出すカードも数えるほどで、季節は静かに過ぎていきます。
それでも、一枚のカードに託される温もりは変わらず、
私の中に残るカナダの冬の景色をそっと呼び戻してくれます。
そして、クリスマスの記憶を語る上で欠かせないのが、母の「クリスマスプディング」です。
――もっと正確に言えば、“プディングの名を借りた重たいフルーツケーキ”。
甘さ控えめで、ぎゅっと詰まったドライフルーツ。
子どもの私はそれがどうしても好きになれず、唯一の楽しみは赤いチェリーだけでした。
けれど、台所で楽しそうに生地を混ぜる母の姿や、オーブンから漂う香り、
そのすべてがクリスマスの気配としてしっかり私の記憶に刻まれています。
今、私がその母の年齢に近づき、
かつては苦手だったあの重たいケーキがふと恋しくなるようになりました。
味覚だけでなく、時間の中で記憶や感情の角が丸くなっていくのだと気づかされます。
あの日のドライフルーツのケーキは、いつのまにか「懐かしさの象徴」へと変わっていました。
特別なイベントがあるわけではない今年のクリスマス。
それでも、遠いカナダの白いクリスマスと、母の台所の温もりを思い出しながら、
新しい場所で静かに季節を迎えるのも悪くありません。
どんな街にいても、クリスマスは過去と今をやわらかくつなぐ季節なのだと感じます。
皆さまのホリデーシーズンが、心安らぐ時間とよい記憶に満ちたものとなりますように。
Merry Christmas and Happy Holidays.