知らんけど。

褒める

会議をはじめる前などのちょっとした時間、
日本では「今日の天気の話」なんかがよく話題になります。
それが英語圏になると「週末何をしていたの?」という会話が多く聞かれます。

日本で、週末の過ごし方を話題にした場合、
「私のプライベートがそんなに気になるの?」と怪訝に思われる可能性があります。
ですが海外では、とくに気にするような人はおらず、日常的に交わされている会話です。

私の同僚は、このような場面を利用して、
相手の奥さんやお子さんなど、家族の情報を把握しています。
その記憶を頼りに、次に会ったときにさりげなくご家族のお名前を取り入れて、

「そういえばあれから、ジェニーさんはコンサート行ったの?」
といった感じで話しかけるのです。

ちょっとした会話から、
「私はあなたのお話を、きちんと聞いていましたよ」というアピールにつなげている、
素晴らしいコミュニケーションスキルです。

記憶力にあまり自信がなく、人の名前を覚えるのが苦手な私には、
まったく真似ができない芸当でもあります。

彼女はkissed the babyという言葉を使い、
こんな会話もしていました。

  • 「いやー、イトコのお家に行ってさ、生まれたばかりの赤ちゃんにキスをしたりしてきたよ」
  • “Oh, I went to my cousins’s house and kissed the baby and what not”

さらにその後、違うミーティングに参加している場面で、
同じkissed the babyを用いた別の表現を耳にしました。

  • ”They didn’t really need my input — just wanted me to show up. So I went, kissed the baby, and ducked out early”
  • 「私の意見が欲しかったわけではなくて、私が参加することに意味があったようなので、ご挨拶だけして早めにトンズラした」

まったく使い方が違いますよね。
前者のイトコの赤ちゃんの話は、実際に赤ちゃんにキスをしたのだと思います。
しかし後者は、
「政治的・立場的」なニュアンスをちょっと入れたいとき、比喩的に使われるフレーズです。

「顔を立てるために形だけ参加する」
「見栄えを良くするための、象徴的でフレンドリーなパフォーマンス」といった場面で使われます。

この話ではもう一つ、親戚のお子さんのことは、
全世界共通で「まあかわいい」と言わなければいけないのかな、そんなことも考えました。

それと同時にアメリカ南部、とくにテキサスで使われる“Bless its heart”という
言葉の笑い話も思い出しました。

テキサスの人は “Bless its heart”という言葉をよく使います。
直訳すると「その心を祝福してあげて」となりますが、実際の使われ方はさまざまです。

「かわいそうに」「よく頑張ったね」という思いやりの気持ちを込めて発せられる場合もあれば、
「残念だね」「おバカだね」といった婉曲的な皮肉として、用いられるケースもあるそうなんです。

例えば、赤ちゃんを見て「What an ugly baby!(なんて不細工な赤ちゃん!)」と思ってしまい、
実際に口にしてしまったとします。

大ピンチの状況ですが、すぐに “Bless his heart.” をつけ加えれば、
何でもぶっちゃけていい、なぜか許されるとテキサス人は思っている、
というジョーク表現の一つです。

もちろん、本当に許してもらえるかどうかは、
場面次第だと思いますが、いかにも南部らしいユーモアですよね。

日本語で表すなら「知らんけど」でしょうか。

  • 「なんやブッサイクな赤ちゃんやなぁ。知らんけど」
  • What an ugly baby. Bless its heart.

大阪弁は案外と世界標準じゃないかと
常々思っている私には、やはりそうか、と思われてしまいました。

このような言葉は、本来の意味を知っているだけでは理解できません。
実際に外資系で働いている私は、
字面だけでは分かりづらい表現が身近に多いと感じるケースが多くあります。

便利に使える言語アプリが増えていますが、
アプリだけで英語を学ぶのは限界があるなあ、と良く感じます。