登場の“仕方”と“去り方”

例文・トピックス

国際的なビジネスをしていると、
会食やカジュアルなイベントなどに参加する機会が少なくありません。
このとき、人が集まる場所へどのように登場するのか、そして去るのか、
「登場の仕方」と「去り方」に、その人の印象やパーソナリティがよく表れます。

日本でも、その場を去るときに「お先に失礼します」と
丁寧にあいさつをしてから会場を後にしたり、
三々五々のスタイルで、自然に人が散っていったり、
さまざまな文化や考え方があります。

この話をアメリカ人の同僚としていたとき、
日本のイベントや食事会でよく見かける、
三々五々のような「黙ってすっと姿を消す」という退出の仕方は、
失礼に受け取られる場合がある、と教えてもらいました。

日本で、大勢が集まる会社の忘年会などに参加している場合、
会社の偉い方や直属の上司などには挨拶をするべきですが、
会話をしたことのない他部署の上司や同僚、後輩といった全員に「お先に」と声をかけるのは、
ちょっと不自然です。

声をかける側も気恥ずかしいですし
「全員にあいさつをするなんて自意識過剰な人だ」と捉えられてしまう可能性もあります。

しかし文化が違えば、受け取り方も違うもの。
海外では、全員にあいさつをしないと失礼になるケースがあると知り、
気をつけなければと心に留めました。

ちなみに、この日本流の三々五々の去り方を、英語では “Irish Exit” と表すそうです。

■ Irish Exit(アイリッシュ・エグジット)

“Irish Exit”は、 挨拶せずにその場を去る行為です。
語源は諸説ありますが、アイルランド系移民のパーティー文化から来ている、
という説が広く知られているようです。

欧州を担当した経験を持つアメリカ人の同僚は、

「そうなのよ、彼ら本当に、気がつくと姿を消しているのよねぇ」

と笑っていました。

アイリッシュ・エグジットは、日本のように「黙って帰るのが当たり前」ではなく、
“席を立つ気まずさがあるから、意図的にサッと消える”
というニュアンスが少し強い感じで使われます。

例文

  • “She did an Irish exit before the speeches started.”
  • 訳「彼女はスピーチが始まる前にアイリッシュ・エグジットで帰りました。」

その他に、こんな言葉もあるそうです。

■ Ninja Exit(ニンジャ・エグジット)

日本の忍者は世界中で人気があります。
アニメや漫画、映画などで、さっと姿を隠す忍術使いになぞらえて派生した、
ユーモラスな言い方です。

意味としては、Irish Exit とほぼ同義ですが、
アイリッシュ・エグジットよりも「気がついたら消えていた」というイメージが強い言葉です。

例文(英語)

  • “He pulled a ninja exit before anyone noticed.”
  • 訳「彼は誰にも気づかれないうちに忍者のようにサッと帰りました。」

このように、静かすぎる退出は、文化的に誤解を招く例があります。
また、去り際だけでなく、“登場の仕方” にも、それぞれのお国柄があるようです。

日本では、基本的に遅刻は厳禁。10分前集合が美しいとされていますが、
海外にはポジティブな意味で遅れてくる人を表す言葉があります。

■ Fashionably Late(ファッショナブリー・レイト)

“Fashionably late” は、あえて少し遅れて登場することで、
余裕や洗練された雰囲気を演出する行動です。映画のプレミアやパーティーなど、
時間に厳しくない場でよく使われます。

優雅な印象を与える登場の仕方ですが、
場面によっては「自意識過剰」「気取っている」といった
ネガティブな印象を与えてしまう場合もあります。
“Fashionably late” を選ぶなら、自分の立場や参加する場面を事前に考慮する必要がありそうです。

その他にも、自分自身の遅刻を冗談めかして
「遅刻じゃないわ、ファッショナブリー・レイトよ」そんな風に説明する使い方、
遅刻しがちな人へ「今日もファッショナブリー・レイト?」と、
軽く揶揄するような使い方もあります。

日本でいうところの重役出勤ですね。

例文(英語)

  • “He arrived fashionably late, just when the room started to warm up.”
  • 訳「彼はちょうど場が温まり始めた頃に、おしゃれに遅れて到着しました。」

遅刻のケースでの用法は、もちろんビジネスでは通用しません。
冗談を言える相手やタイミングであるかどうか、慎重に考えたいところです。

その他にも、こんなフレーズがあります。

■ Making a Power Entrance(メイキング・ア・パワー・エントランス)

“Making a power entrance” は、あえて遅れて登場し、強い存在感を示す行動を意味します。

一般の会社員ではなく、政治家や経営者、有名人などが、
わざと時間をずらして注目を集めたい、という場面で多く用いられます。

“Fashionably late” よりも、権威や自信のトーンが強い点が特徴です。

例文(英語)

  • “The CEO made a power entrance, and the entire room shifted its attention.”
  • 訳「CEOが堂々と登場した瞬間、部屋中の視線が一気にそちらへ向きました。」

今回紹介したように、退出や登場には、その国らしいスタイルがあります。

ビジネスでは、会議や会食、イベントなどがつきものです。
海外向けに仕事をする場合は、その土地の文化に合った行動、表現を覚えておきたいですね。

相手の言動や行動の背景を理解していると、異文化の場であっても、肩の力を抜いて関われます。

静かに消える文化で育った人もいれば、あえて目立って遅く現れる人もいる。
国際的なビジネスをスムーズに進めるなら、文化の違いを楽しみながら、
周囲と接する余裕が大切なのかもしれません。