段ボールを持ってオフィスを出る

考察

「あなたのシステムアクセス権を本日、現時点をもって失効します。
ダンボールに私物を詰め、速やかに会社を出ていくように」

これは、とあるクビ対象者へ送られるメールです。
まるで映画のシーンのようですが、外資系に勤めていると当たり前にみる景色でもあります。
クビだけでなく、競合他社に転職すると分かった場合も、同様に処理されます。

情報漏洩を防ぐため、人事・上司に転職の事実が伝わった瞬間、
システムアクセス権や社員証が即差し止められるのです。

日本人からすると、クビ宣告後すぐにダンボールを持って出て行け、
という対処は重く感じられるかもしれません。

「その日まで真面目に仕事をしていたのに、かわいそうじゃないか」

そう考える人もいると思います。

ですがクビ対象者は、会社の状況にたいして、

  • 対象者の給与が高すぎる
  • 対象者の生産性が低すぎる
  • 対象者のスキルが不要になった

このような問題を起こしていたからクビの対象となったといえます。

能力が理由であれば単純に対象者の力不足ですし、
給与が理由であればコスト削減のため、かならず誰かが引っ掛かります。
事業戦略変更によるクビであれば、そのまま居続けても仕事を与えられないため、当然の選択です。

ところで、
従業員によっては、突然のクビ宣告を歓迎する人もいます。

「会社を自己都合で辞めて転職するのは面倒。
会社都合であれば、タイミングや運が悪かったいう事実になるから、
転職活動を有利に進められる」

「会社理由でクビになる場合、
“パッケージ”と呼ばれる通常より配慮された
特別退職金等の優遇措置がもらえるから好条件」

「当日から出社に及ばずとあっても、
“パッケージ”の内容によっては、会社への所属期間が猶予される場合がある。
日本であれば30日事前通知が法的に必須のため、
まるまる1ヶ月間は大手を振って自由に転職活動ができる」

色々な見方がありますが、お互いにサバサバしたものです。

クビ候補が多い企業の場合、居続けた結果共倒れしてしまう危険性があること。
企業の状態があまり良くない場合は、仕事に貢献しても評価されない恐れがあること。
このようなトラブルを回避するためにも、会社都合で辞めたいと考える人が少なくありません。

この後苦労するのは、むしろ企業に残ってしまった人です。
「少人数でこれまで通りの業務をこなさなければならない」
といった現場の悲鳴が、容易に想像できます。

とはいえ、この人たちも、嫌ならいつでもやめて構わない状況です。
あとは“選択の自由”を行使するかどうか、個人の判断が求められるでしょう。

海外では即刻クビや急な転職が当たり前。
生涯雇用や終身制度といったシステムはなく、業界内で渡り歩くのが常の世界です。
未来が約束されていない職場だからこそ、臨機応変な動きに慣れていると感じます。

突き詰めると、去る人によるネットワークで、外資系は成り立っているのかもしれません。
実際に、思わぬところでかつての上司や同僚と再会したり、
過去の人脈を生かし紹介採用に推薦したり、といった例が見られます。

流れるのが当たり前の外資系。

自分を守るためにも、転職を有利に進めるためにも、
段ボールを持って即オフィスを出るのも
ある意味では、正解のようです。