人聞きの悪い言葉とLジェスチャー

例文・トピックス

国会やニュースなど、著名人がちょっとした冗談のつもりで言った言葉が炎上する、
という事例が数えきれません。
どうしてそんな言葉を使うの? と首を捻るような失言で、
職を追われる例も多くあります。

私たちが仕事をする際も、
Politically correct(人種や性別、障がいなど特定の属性を持つ人に対する差別や偏見を防ぐために、
言葉や表現に配慮するべきという考え方)は非常に大切です。

責任ある立場になればなるほど
「相手への思いやり」「前向きな場にふさわしい言葉選び」が求められます。

ですが実際には、政治家のうっかり発言のような言葉が出るケースもあります。

以前、責任ある立場の上司がちょっとした冗談として、
”They are bottom feeders in competitor”
という攻撃的・批判的な表現を選んだことがあり、さすがにまずいのでは?
と、近くで聞いていてドキッとしました。

「bottom feeder(ボトムフィーダー)」という言葉は、
水中生物を表す表現です。ゴンズイやナマズのように、
水底のゴミや排泄物、死骸などを食べる魚や生き物を指しています。

これを今回のように「bottom feeders」と表す場合、
相手を以下のようにみている可能性があります。

  • 倫理的でない、または質の低いビジネスや人物
  • 他人が相手にしない顧客や案件を拾い集めて活動している企業

一例を挙げるなら、価格を大幅に下げて顧客を奪う人、
小口案件をつまみ食いする人、怪しい手法を使っている企業などが該当します。

bottom feederの本来の意味から、
他人の「残り物」や「捨てられたもの」を利用して生き残る存在を意図して、使ったのだと思います。

でも、内輪同士のカジュアルな表現ですし、
オフレコな場面で出てきた言葉ではありますが、
どう考えても攻撃的過ぎます。
言われた側にたいする配慮が、欠如しているのは明らかですよね。

  • 「ライバルが質の低い取引をしている」
  • 「顧客を不公平に、あるいはあさましい手段で狙っている」

といった事例にたいして、軽蔑や苛立ちを示しているのだと思うのですが、
公に使える表現ではありません。
私たち外国人は、とくに避けるべきフレーズだと感じました。

この一件のことを考えていたら、
昔の上司が予算会議でふざけていた場面が思い出されました。

アカンベェをしながら、
親指と人差し指を伸ばして「L」の形をつくり、
それを額に当てて、ある営業さんのことを冷やかしていたのです。

「L」を額に当てるこの動きを、英語圏では「Lジェスチャー」といいます。

このジェスチャーは、
「Loser(負け犬)」を意味するサインで、
主に子どもやティーンエイジャーの間で使われています。

落ちこぼれている人や人気のない人物、
仲間外れの対象を揶揄する目的ではじまったジェスチャーですが、
言葉なしに「お前は負け犬だ」と直接伝わる表現です。
冗談めかした場面が多いとはいえ、そのインパクトは決して軽くありません。

上司の場合もおそらく「奮起して欲しい」と思い、
軽い気持ちでけしかけたのでしょうが、いい大人が「Lジェスチャー」をするのはいただけません。

その方は営業リーダーで、
力量もある人だったのですが、あるときトップマネージメントが、
「あいつは、Curse Word(罵り言葉)の多様や、不適切な発言が見られるから、
今以上の役職には推薦できないな」
と裏で評価を漏らしていました。

個人的には好きな上司でしたが、
ああ、トップに立つというのは難しいのだなぁと思ったものです。

Lジェスチャーを跳ね返す歌

海外では最近、Lジェスチャーに関連する曲が、映画に使われました。

映画『シュレック』のオープニングなのですが、
主人公が泥風呂に入り、虫で歯を磨き、
「文明的」な社会の外で生きる様子を描く冒頭シーンがあります。
ここで使われているのが、1999年に発表されたSmash Mouthの楽曲「All Star」です。


冒頭のシーンの中では「Lジェスチャー」を指す歌詞が流れます。
映画内で、実際にジェスチャーが使われるわけではないのですが、
意図をもって次の歌詞が採用されました。

“She was looking kind of dumb with her finger and her thumb In the shape of an ‘L’ on her forehead.”

この一節は「彼女は額に『L』のサインを当てていて、少し間抜けに見えた」という意味があり、
「Lジェスチャー」を直接的に示しています。
楽曲全体の主題、つまり「他人からの誤解や嘲笑」を暗示したフレーズです。


ところが面白いことに、Lジェスチャーの歌詞とは逆説的に、曲は進んでいきます。
主人公は“ルーザー”というレッテルを受け入れ、
自信を持って前に進む姿勢をみせるのです。

つまりこの曲は「他人にどう言われようと、自分らしく進め」という
前向きなメッセージを込めた応援ソングだったんですね。

サビでは「君はスターなんだ、ゲームを始めて、輝いていけ」という励ます言葉が繰り返され、
どんな環境でも挑戦する大切さを伝えています。

私たちビジネスの現場も、綺麗ごとだけでは済まされず、
表現ひとつで場の空気や人の気持ちが大きく変わります。
責任ある立場になればなるほど、無意識の言葉が周囲に多大な影響を与えてしまいます。

言った側は冗談のつもりでも、誰かを傷つけたり、
信頼を損なったりするケースがある。
だからこそ責任者が持つべきは、いつでも変わらないポジティブさや実直さなのかもしれない。
「All Star」を聴きながら、あらためて感じました。

私も、言葉の持つ重みをつねに理解して、
相手の気持ちに立ったフレーズ選びをしていきたいと思います。