中国企業との折衝・こぼれ話

ちょっとしたコツ

法務のお話を先週書きましたが、
今回は、とある中国企業との折衝について、お話したいと思います。

これまで海外相手にさまざまなやりとり、駆け引きをしてきましたが、
この件は大手中国企業の法務担当者が相手でした。
その結末が非常に感慨深かいものでした。

この時、私たちは契約にどうしても含めたい、必要な文言がありました。
しかし、中国側は、
「絶対に受け入れない」
と強固に拒否……暗礁に乗り上げてしまったのです。

私たちが含めたかった文言はFCPAというアメリカ企業では必須の法務条項です。
FCPAは
「Foreign Corrupt Practices Act(海外腐敗行為防止法)」のことで、
商業目的での贈賄行為を禁止するために、アメリカで制定された法律です。

アメリカ企業が締結する契約では基本中の基本。
この文言を取り除く、という妥協はあり得ません。

そもそも、
「汚職・腐敗防止条項について賛成しかねる」
という中国企業の拒否は、驚愕以外の何者でもありませんでした。
アメリカ本社は当然大騒ぎになり、
「そんな不道徳な国と契約できるはずがない!」
と、大問題へ発展しそうな事態に。

この様子をそばで聞いていた私は、おかしいなぁと思いました。
中国がFCPAをかたくなに拒否する理由を、理解できなかったのです。

その後、中国メンバーからサポート要請が入り、
理由を解明するため、中国の深圳市まで出張して会議に参加しました。

その時の会話です。


「どうして“汚職・腐敗防止条項”に賛成できないの?」

中国企業の担当者
「中国は誇り高い国であり、昨今は汚職撲滅が大変重要になっている。
だから、会社として、この条項はとても大切である。
国家としても注目されているので妥協はできない」


「えっ????(拒否しているのに条項が大切!?)」

中国企業お客様:
「誇り高く長い歴史を持つ中国は、
経験の浅いアメリカが唱える“汚職・腐敗防止条項”には到底合意できない。
中国には中国の汚職・腐敗防止条項がある。
貴社は中国の汚職・腐敗防止条項に同意するべきである。
我々は断固としてアメリカの条項には合意しない。
アメリカこそ、我々中国の汚職・腐敗防止条項をちゃんと守るべきである」

これを聞いて、拒否していた理由は条項の問題ではなく、
国家間にあるプライドの問題だったのだと理解できました。

アメリカ本社側としては
「中国で汚職が蔓延しているから、困っているのだが……。
コピー、ハッキング、汚職に満ちた国が
今更“汚職・腐敗防止事項”とか言われても
それが信頼できないし、できていないから、条項があるのに、
事足りるわけがない」
という思いが当然あります。
しかし、ここを説明しても、中国が首を縦に振らないのは明らかです。

そこで私たちは、中国に寄り添う方法で、解決しました。
FCPAの文言に、以下のフレーズを追加したのです。

「汚職・腐敗防止条項について、
弊社中国支社が遵守する汚職・腐敗防止条項である汚職防止条項を遵守することに合意する」

相手は、誇り高き中国です。
だからこそ、同じ中国企業である中国支社が遵守している条項であれば問題ない、
という結論へ導きました。
中国人としてのプライドを守りながら、同意によって問題が生じない立場を担保したのです。

こうして無事に、契約を進められました。

折衝は、要求の本質を理解すること。
対話の中で、相手を真摯に思いやることが大切だと感じた一件です。
皆さまも、意見が合わない場面にぶつかったら、
Yes/Noだけでなく、その理由を探ってみてみてください。

意外な本音や解決の糸口が見つかるかもしれません。

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