「担当の仕事」や「当然の仕事」は存在しない

依頼・指示・折衝

日本からの依頼メールや問い合わせメール。その中には、

「あー、これは地雷を踏んだな」

と一瞬で見抜けるメールがいくつか存在します。

中でも誤解が多いのは
「担当の仕事」もしくは「当然の仕事」を想定したメッセージです。

日本の会社では、それぞれに「担当の仕事」を割り振る傾向があります。
ある役職が常にやる仕事、担当しているプロセスも少なくありません。
ずっと日本企業で勤めている場合、この事実に気付きにくいのですが、海外からは、
「日本のビジネスは、プロセスを重要視し過ぎている」
そう言われ、あまり良いとされていません。
日本企業では、その役職についたら、当然期待される役割や仕事、タスクがあります。
その役割や仕事、タスクを担当する人が変わっても、同じ期待値や結果を保てるマニュアルや引継ぎシステムもあります。

誰が役に就いても一定以上の成果・結果が期待できる、
これは大変優れた社会機能であり、
人の能力に左右されず同じ仕事が同じように粛々と進む素晴らしい形に思えるのですが、
なぜ海外では通じないのでしょうか?

海外の職場は、人が一番に優先されます。

仕事の進め方、やり方はその人次第で、
上司が変われば組織もプロセスも、時には仕事の目的すら変わってしまいます。

「なぜそんな方法を?」

と思うかもしれませんが、考えうる最適な人材をそのポジションにあてれば、
仕事や優先順位、プロセスの最適化が同時に有機的に行えます。
一貫性には欠けますが、変化に強い点がメリットです。

このような海外事情を踏まえて、実際に見かけたメールの一つを紹介します。

日本企業からの連絡で、

  • 「納入済みの日本顧客が10社ありますので、よろしくお願いいたします」

というメールがありました。
このメッセージの裏には、

  • 「日本のお客様へ既に10社納入実績があり、最新製品アップデートの連絡を今入れると問題があります。日本については猶予を与えるなり、アップデート適用を延期するなりの、検討をお願いします」

という意図がありました。

しかしメールの送信者は、
日本であれば“顧客が10社ある”という事実を伝えるだけで、
相手が仕事の役割、役職に応じた適切な仕事をしてくれるため、
重要な部分を省いてしまったのです。

当然海外では、日本のような配慮はありません。
もちろん文章の内容は、そのまま受け止められました。

その結果、「お願いします」だけの一文一言を前に、

  • 「で????」

と無視する人や怒る人。
もしくは、

  • 「へぇ、そうなんだ」

という他人事のリアクションをする人がいるだけで、
終わってしまいました。

海外では当たり前の反応なのですが、この対応を前に、
日本人側が「責任感がない」「失礼だ」と怒っているケースも多く、
余計に根が深いと感じるばかりです。

それではこのケース、どのように連絡するのが正解だったのでしょうか?

この場面では、具体的な「要求・依頼」を先に持ってきて、
その後で「理由を説明する」という配慮が求められます。
これはメールの場合も、
実際に顔を合わせての会話でも同じです。

  • 「アップデートについて、日本には猶予を与える、もしくはアップデート適用の延期を検討してください」
    「なぜならば、日本のお客様に既に10社の納入実績があります。最新製品アップデートの連絡を今入れると問題が起きるからです」

こう説明すれば、
要求の理由が分かりやすく、アクションが必要だとすぐに伝わります。

海外へメールを送るなら、
相手の立場に立って、受け取った人がどうするべきか、自分はどうして欲しいのかを、
はっきり伝えましょう。

このやりとりの方法は、日本でも役立ちます。

普段から結論や要求を先に、
あとから理由を話すくせをつけておくと、円滑なコミュニケーションにつながります。